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火野葦平 『糞尿譚・河童曼荼羅(抄)』 

火野葦平 『糞尿譚・河童曼荼羅(抄)』 講談社文芸文庫



火野葦平は1907年、北九州生まれの小説家。1937年、支那事変への応召直前に書き上げた今回の表題作、『糞尿譚』によって芥川賞を受賞しております。授賞式は戦場の中国杭州にて行われ、小林秀雄が特派員として内地より赴いたとのことです。


その『糞尿譚』の主人公は、とある地方都市で糞尿汲取り業を営む男。
最初は充分な勝算ありと踏んで始めた事業ではあるものの彼の目論見はまんまと外れ、先祖伝来の土地を手放し、家族とは別居状態となって、いまや資産といえばボロトラックのみ。近所の子供からもバカにされながらも、再起の念だけは強く持って彼は日々汲取りに励むわけです。

そんな主人公はついにある日、市から指定業者としての看板を獲得することに成功するのですが、喜んだのも束の間、今度は市議会の派閥争いに巻き込まれて散々振り回される羽目になる。
と、そういう話。


(映画の)『三丁目の夕日』的な安易な懐古趣味には走りたくはないですが、本作を読んで印象に残るのはまず戦前の平和な日本の空気です。新開地の貯水池で食用蛙を取る男や、芸者上がりの女とそれを囲うお大尽、あるいは朝鮮人、被差別部落と思しき集落の住民、など当時の人々の生活が糞尿の汲取りを通して垣間見えるわけです。

そもそも、最近じゃあ汲取り屋さん自体見かけないしねぇ。


戦後は兵隊小説や中間小説で有名になる著者ですが、本作からはどこか安吾や作之助といった新戯作派に通ずる雰囲気も感じられ、開戦前夜という時局下で新しい文学を模索していた若き日の著者の姿が浮かびます。

後年の作品と比較すると少々筆の運びがぎこちないような印象も受けますが、汲取り業者という斬新な設定、かつ冷静に考えるとあまり救いのない物語を、誰も傷つけることのない飄逸なタッチで描きあげた力量は感嘆してしかるべきでありましょう。


なお、併録の『河童曼荼羅(抄)』は、河童を愛して止まない著者が書き溜めてきた、河童にまつわる短篇12編をセレクトしたもの。若干玉石混交の感はありますが全般的に耽美的で、詩人・芸術家としての著者の側面を強く現しております。

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2008年05月20日  未分類 トラックバック:0 コメント:0












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